オープンラボは「ものづくり工房」です。電子工作のためのハンダごてに始まり,樹脂加工のためのレーザカッタや3Dプリンタ,コンピュータ制御で金属切削ができるNC加工機,そしてマニュアル制御のボール盤・フライス盤・旋盤などが備わっています。このウェブページでは,これら工作機械の基本的な使い方を解説します。
- レーザカッタ(Applause 3+):アクリル板の切り出し,穴あけなど。
- 3Dプリンタ(Lepton2, 3D Touch):3次元造形(素材は PLA(ポリ乳酸樹脂)や ABS) など。
- NCフライス(KitMill RZ300, Sable-2015):アルミ等の金属,アクリル,MDF などの切削加工。
- ハンダごて:電子工作における配線など。
- ボール盤・フライス盤・旋盤:アルミ等の金属,アクリル,MDF などの穴あけ・切削加工など。
- その他:ジグソー,ハンドドリル,グラインダほか
こじ研の関係者であれば誰でもオープンラボを利用することができますが,あらかじめ小嶋に相談し,必要なインストラクションを受けてください。とくに安全(ケガ防止・火災防止)に関わることについて十分心得た上で利用してください。
こじ研では,以下のソフトウェアの利用を推奨しています。いずれのソフトウェアも基本的に無料で,Mac でも Windows でも利用できます。このウェブページでは,各工作機械の使い方を説明しますが,すべてこれら推奨ソフトウェアの利用を前提として進めます。各ソフトウェアの基本的な使い方は各自で自主学習してください。
- Fusion 360(機械設計や立体造形のための3次元 CAD)
- KISSlicer(造形データを3Dプリンタの動作指令(G-code)に変換するための CAM)
- Inkscape(2D設計図を編集するための作図アプリ)
- KiCad(電子回路の設計およびプリント基板の設計のためのアプリ)
レーザカッタを利用するには,2D設計図を Fusion 360 または Inkscape で作成し,DXF ファイルとして保存します。このファイルを USB メモリ経由でレーザカッタ制御用パソコンに取り込めば,切り出し可能です。
3Dプリンタを利用するには,3D造形データを Fusion 360 で作成し,STL ファイルとして保存します。つぎに,このファイルを KISSlicer で開き,適切な設定のもとで動作指令(G-code)ファイルに変換します。このファイルを SD カードまたは USB メモリ経由で3Dプリンタに取り込めば,造形可能です。
NC加工機については,現在準備中です。
レーザカッタ Oh-Laser Applause 3+(左下図)は,おもにアクリル板を切断するために使います。入手しやすいアクリル板には 2mm 厚,3mm 厚,5mm 厚などがあります。こじ研のレーザカッタは最大 10mm 厚のアクリル板を切断できます。アクリル板の大きさは A4 サイズ程度まで扱えます。板材が大きい場合は,あらかじめアクリルカッタ(右下図)で適当な大きさに切っておきます。(参考:アクリルカッターの正しい使い方、選び方)
図面の作成からレーザ加工までの一連の工程は下図のようになります。点線の中はオープンラボにあるレーザカッタと制御用パソコンでの作業です。
Fusion 360 を使う場合:
- レーザで切断するパスが1つの平面(つまり1つのスケッチ)にすべて含まれるように,切断パスを描いてください。
- 切断対象となるスケッチを選択し,右クリックから "Save as DXF" を選ぶことで,このスケッチを2次元図面として自分のコンピュータに保存できます。
- 必要に応じて,この DXF ファイルを Inkscape で開いて確認・修正することができます。図面が左下に現れるので,全選択(Control-A)してから中央付近に移動し,適宜拡大(ウィンドウ右下のズーム率を変更)してください。図面に補助線が残っている場合は,ここで削除すればよいでしょう。
- 得られた DXF ファイルを USB メモリに保存します。研究室や自宅で DXF ファイルを用意し,この USB メモリだけをオープンラボに持ってくれば,レーザ切断は可能です。
Inkscape を使う場合:
- 1pt 程度の黒線(#000000)を使って切断パスを描画します。あるいは輪郭なしのベタ塗りで閉図形を描いてもよいでしょう。図を黒(#000000),地を白(#ffffff)としてください。単位はミリ(mm)を選ぶとよいでしょう。
- Inkscape のデフォルトでは SVG で保存されますが,"Save As..." から保存形式として "DXF Desktop Cutting Plotter (AutoCAD DXF R14)" を選んで保存します。
- 得られた DXF ファイルを USB メモリに保存します。研究室や自宅で DXF ファイルを用意し,この USB メモリだけをオープンラボに持ってくれば,レーザ切断は可能です。
なお,Inkscape を使えば,他の描画ソフト(illustrator など)で作成した図面でも,DXF 形式に変換することができると思います。お試しください,
- レーザカッタの主電源(本体右奥にあるトランス(青箱)の赤いスイッチ)を入れ,レーザカッタ本体の電源(本体右手前の赤いスイッチ)も入れます。ポンプ類の動作音を確認してください。机下にあるバケツの冷却水が適量(印の高さ)かどうかを確認し,必要ならば水道水を補充してください。
- レーザカッタの横にある制御用パソコンに USB メモリを挿し,図面ファイル(DXF)を CorelDraw で開きます。必要に応じてここで図面を編集しても構いません。(制御用パソコンに挿してあるオレンジ色のドングルはソフトウェアのライセンスキーです。抜かないでください.)
- レーザ加工を始めるには,CorelDraw ウィンドウ右上付近にある "Export PLT" を押します。3つある中の真ん中のアイコンです。
- レーザカッタにアクリル素材を入れ,その厚みに合わせてフォーカスを調整します。レーザヘッド横の金色のネジを緩め,筒状部品の下端(射光口)が,アクリル板の上表面から 10mm だけ離れるようにしてください。「フォーカス」と刻印されたアクリル片(10mm 幅)があるので,射光口とアクリル板の間にちょうど挟まるように調節するとよいでしょう。
- 必要に応じて加工開始位置を調整します。加工開始位置は MoshiDraw ウィンドウ上部の X と Y の数値入力ボックスに入れて Enter キーを押し,レーザヘッドの位置を調整してください。加工開始位置は,切り出される図形エリア(赤枠)の左上端となります。
- レーザカッタのパネル右側の「パワー調節」ツマミを反時計回りに一杯まで回し,そこを原点(ゼロ)として時計回りでレーザの強さを設定します。「パワー調節」が 16 であれば時計回りに 1 回転プラス 6 目盛となります。設定する値については,次項を参照してください。
- MoshiDraw ウィンドウ右側の「切断速度」を,アクリルの厚さや「パワー調整」に合わせて適切な値に設定します。設定の目安は下表のとおりです。(あくまで目安です。素材の特性やレーザ発振器の調子によって適切な値は変わります。安全のため 20 は超えないようにしてください.)
アクリル厚さ パワー調節 切断速度 1mm 14 7mm/s 2mm 13 3mm/s 2mm 16 7mm/s 3mm 16 4mm/s 3mm 18 5mm/s 5mm 16 2mm/s 10mm 20 1mm/s
- これで準備 OK です。レーザカッタのドアを閉め,窓の換気扇(銀ダクト接続部直下のスイッチを押すたびに換気オン・ロスナイ・オフ)が「換気オン」になっていることを確認します。レーザカッタの「レーザースイッチ」ボタン(青)をオンにし,MoshiDraw ウィンドウ右側の「出力」を押してください。確認ダイアログが出てくるので「フォーカスを調整したか,パワー調整・切断速度は適切か,ヘッドの位置は適切か」を確認し,問題がなければ「OK」を押してください。これでレーザ加工が始まります。必要に応じて部屋の窓を開けるなど,換気に十分注意してください。
- 加工が終了すると,レーザヘッドは加工開始位置に戻ります。「レーザースイッチ」ボタン(青)をオフにしてからドアを開け,アクリル素材を取り出してください。
3Dプリンタ Genkei Lepton2(下図)は,3次元の立体をプラスチックで造形するために使います。素材は PLA という生分解性(土に埋めると微生物によって分解されるという特性)をもつプラスチックです。このほかに ABS というより堅牢なプラスチックも利用可能ですが,ここでは取り上げません。PLA は通常の環境であれば安定した普通のプラスチックなので,環境のためにも PLA の使用をおすすめします。
形状データの作成からプリントまでの一連の工程は下図のようになります。基本的には動作指令(G-code)のデータを SD カードに入れてオープンラボに持ち込めば造形可能です。
Fusion 360 作成した立体から STL データを作成するには,Fusion ウィンドウ左側の "BROWSER" から,対象全体(最上段)または特定の構成部品(立方体アイコン)のエントリを右クリックし,"Save As STL" を選択することで,自分のコンピュータ上に保存できます。"Refinement" を "High" にする以外は,デフォルト設定のままで構いません。
STL データは,立体の表面を三角形の集まりで表現したデータです。保存した STL ファイルは,Mac であれば Preview で表示できます。マウスドラッグで向きをグリグリ変えてみてください。(Xcode が起動してしまう場合は,右クリックして "Open With" から Preview を選んでください.)
つぎに STL データを,3Dプリンタの動作指令(G-code)に変換します。そのための変換アプリが KISSlicer です。KISSlicer を立ち上げて,"Open" から STL ファイルを開いてください。
おそらく初期状態では立体の向きがおかしいはずです。ウィンドウ右側の立体図をクリックすると,上図のように座標軸が表示されます。Fusion 360 では鉛直方向が Y 軸ですが,3Dプリンタの鉛直方向(積層方向)は Z 軸です。そこで,この立体図を右クリックし,"Transform Mesh" から "Y => Up" を選びます。すると,立体が回転して,Fusion 360 の鉛直方向と3Dプリンタの積層方向が一致するようになります。
KISSlicer ウィンドウの下側には,さまざまな設定パネルがあります。正しく3Dプリンタで造形するには,適切な設定が必要です。ウィンドウ右下で "Setting Level" を "Expert" にします。まずは以下の設定を試し,必要に応じて微調整してください。
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Style:
積層ステップ(1層あたりの厚み)は,0.05〜0.2mm 程度で変えられるようですが,ここでは 0.1mm としています。ここで紹介する他のパラメタも積層ステップ 0.1mm を前提としています。
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Support:
ラフト(造形物をベッドに固定するための筏状の追加造形物)は使用しません。ここでは,サポート(空間上に天井を造形をするための柱状の追加造形物)も極力使用しないようにします。サポートが必要な場合は,左上のスライダを動かし,各パラメタの値を調整してみてください。
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Exp Map:
エクストルーダ(樹脂の射出装置)の設定です。ここはデフォルトのままで構いません。
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Printer:
3Dプリンタの動作条件(4項目)を,以下のように設定してください。
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Printer G-code:
造形開始時・終了時などにプリンタに送る動作指令(ホーミング動作やヒータの制御など)を設定します。7項目ありますが,重要なのが Prefix(開始時)と Postfix(終了時)の動作指令です。(動作指令(G-code)の詳細はこちらの解説を参照してください。Lepton2 のファームウェアは "Marlin" です.)
; prologue G21 ; mm-mode G90 ; absolute-mode G28 ; move to origin (front/left) ; warming up M140 S<BED> ; warm up the bed (without wait) M109 S<TEMP> ; warm up the hotend and WAIT M190 S<BED> ; warm up the bed and WAIT ; purge & wipe G1 X40 Y0 F2000 ; move to purging position G92 E0 ; reset extruder G1 E25 F300 ; purge 25mm G1 Y40 F8000 ; quick wipe-in G1 X180 F1000 ; slow wipe-side G1 X100 Y0 F8000 ; quick wipe-out G92 E0 ; reset extruder
; home head G1 E-4 F500 ; retract a little G1 Y0 F8000 ; home Y G1 X0 F8000 ; home X ; Cool down M104 S0 ; hotend off M140 S0 ; bed off
;;; Select New Ext & Warm ;;; M109 S<TEMP>
;;; Warm Same Ext ;;; M109 S<TEMP>
;;; Cool Same Ext ;;; M104 S0
;;; Cool & Retire Old Ext ;;; M104 S0
;;; N Layers ;;; ; none
-
Matl (Material):
素材の特性(直径・加工温度など)を設定します。ここでは PLA の場合を例示します。
-
Matl G-code (Material G-code):
空欄にしておきます。
すべての設定ができたら,G-code を生成します。KISSlicer ウィンドウ右上の "Slice" ボタンを押してください。生成された G-code をファイルとして保存するには,同じ位置にある "Save" ボタンを押してください。このファイル(たとえば "springBase.gcode")を SD カードに保存すれば,準備はすべて終了です。ウィンドウ右側に,消費する樹脂の体積(これをフィラメント断面積で割れば消費する長さが得られます)や造形にかかる時間(ここでは 1時間 7分強)が表示されています。
なお,KISSlicer に設定したパラメタは記録され,次回以降に起動したときのデフォルト値となりますので,とくに調整が不要であれば,軸方向の調整のみを行うだけで "Slice"・"Save" が可能です。
KISSlicer に設定したパラメタが3Dプリンタ Lepton2 の動作特性と「適合」していれば,造形作業は比較的簡単です。ここでは,すでに機械的な調整(ベッドの高さ・水平度,素材フィラメントの補充・パージングなど)はすでに完了しているものと仮定して,造形作業のみを説明します。(機械的な調整については「Lepton2 3D プリンター:Wiki & 解説ページ」を参照してください.)
Lepton2 の背面にある電源スイッチをオンにしてください。Lepton2 のツマミ(下部右側)を押し込むと,表示パネルに下図のような画面表示が出るはずです。ツマミを回すことで,メニュー上のカーソルを移動できます。メニュー項目を選択実行するにはツマミを押し込みます。また,ツマミを回して数値を増減させることができます。ツマミを押し込めばその数値で決定となります。
- SD カード挿入: 操作パネルの左側に SD カードスロットがあります。G-code ファイルの入った SD カードを,その表面が左側になるように,このスロットに挿入してください。
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ファイル選択:
メニュートップの "SD カードからプリント" を選択し,造形したいファイル(たとえば "sprintBase.gcode")を選択・決定します。
これだけの操作で,まずノズルとベッドの予熱が始まり,設定した温度に達すると,造形が開始されます。造形中は SD カードを抜かないでください。(なお,造形中にツマミを回すと造形速度が変化します。画面表示の左下に "100%" とあるのが造形速度です。速度を 100% のままで造形することをオススメします.)
造形が終了したら,ノズルヘッドが左手前に退避しますので,造形物を取り出してください。これで,SD カードを抜くことができます。ノズル・ベッドのヒータはオフになっています。
何らかの理由で造形途中で停止させる場合は,メニューから "プリント停止" を選択してください。各モータがオフになるので,手でベッドを下げ(必要ならばヘッドを動かし)造形物を取り除くなどの処置をしてください。ノズル・ベッドのヒータはオンのままです。オフにするには,メニュー(コントロール > 温度 > ノズル,ベッド)で設定温度を 0 にするか,あるいは電源を入れ直してください。
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